セロトニン症候群

先週、娘がセロトニン症候群で救急に運ばれました。幸い軽症で数時間後には帰宅できたのですが、それ以来、OCD(強迫障害)によって薬に対する恐怖心が増幅し、薬を飲もうとするたびに不安が増すようになってしまいました。

セロトニンというのは脳内ホルモンとも言われる神経伝達物質で、うつ病ではセロトニンの不足が多くみられることから、従来からSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)とよばれる薬が主流のうつ病薬として使用されているそうです。SSRIは、放出されたセロトニンが細胞に吸収されてしまうのを選択的に阻害して、セロトニンが脳内に残るようにするのですが、副作用や過剰摂取によってセロトニンが増えすぎると、最悪の場合死にもつながる「セロトニン症候群」という危険な状態になるので注意が必要です。

娘の場合はSSRIは効果が見られなかったので服用していなかったのですが、OCD薬として新たにクロミプラミンという薬を始めることになり、それを服用して3時間ほど経ってから突然「体の中が燃えているような気がする」と苦しみだし、起き上がれなくなりました。クロミプラミンはSSRIではなく三環系抗うつ薬ということですが、やはり体内のセロトニンを増やす作用があるようです。服用量は少なかったのですが、ほかにも処方薬を服用していたので、その組み合わせがよくなかったのかもしれません。

救急車を呼び、到着した救急隊員からは、コロナ感染者がまだ増加中でもあり、私が病院についていくことはできないと言われてしまいました。幸い数時間後には娘自身から電話があり、帰宅できるとのことで、すぐに迎えに行きました。すると、鎮静剤を投与されてぼーっとした娘が病衣を着たまま病院の救急玄関口の車寄せで一人座って待っていて、なんだか放り出されたような気がしました。コロナもあっておそらく病院側は一刻も早く出ていってほしかったのかもしれませんが、こんなときは本当に心細くなります。

こんなことがあって娘はすっかり薬が怖くなってしまいました。これまでなかなか効果のある薬がみつからず、いろいろな治療薬を試してきました。抗うつ薬が効かないので、適応外使用の薬を試したり、でもそうすると不安が高まるので今度は不安を抑える薬を使い。。。セロトニン症候群に使われる薬はロラゼパムという抗不安薬ですが、娘の場合、ロラゼパムを服用すると希死念慮が出ることがあります。そして、気をつけないと依存性もあるそうです。パニック発作になったときに魔法のように効くと重宝していたケタミンスプレーもセロトニンを増やすそうで、使用を中止することになりました。副作用のない薬はありませんが、コロナ禍で孤立感・不安感が高まったこともあり、つい薬に頼りたくなっていたような気がします。ただし薬に救われていたことも確かで、そのバランスを見つけることは容易ではありません。今度また精神科クリニックの先生と治療方針を見直す予定です。

 

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ネットフリックス「ラブ・オン・スペクトラム〜自閉症だけど恋したい!〜」を見て

ネットフリックスで「Love on the Spectrum(邦題:ラブ・オン・スペクトラム〜自閉症だけど恋したい!〜)」という番組を見ました。オーストラリアに住む自閉症の20代の男女何人かがパートナー探しをするリアリティ番組です。見ているうちに誰かいい人がみつかりますように、と心から出演者を応援する気持ちになる、とてもよい番組でした。「I am on the spectrum」というと、自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)があるということです。自閉症といってもその症状や程度は様々で、20歳近くになるまで自閉症と診断されなかった若者も何人が出演していました。特に女性の場合は、自閉症は男性の方が格段に多いと広く思われているため、診断が遅れがちのようです。

それにしても、出演者の何人かが「きらいなもの」として挙げていた音やにおいなど、敏感な聴覚・臭覚・感覚はOCD(強迫障害)の私の娘とも通じるものがあって、メンタルな障害はひとくくりにできないのでは、という思いが強くなりました。実際に自閉症とOCDとの併存は多いと言われています。例えば、「お茶をすする音」「新しい服がチクチクする感覚」「芝刈り機の音」など、とても具体的な感覚が我慢できないのだそうです。しかも、例えば黒板を爪でひっかく音は誰もが不快に思うものですが、娘に言わせれば自分にとって我慢できない音は、不快を超えて実際に体に痛みを覚えるほどなのだそうです。一人の出演者は、自閉症であることは「透明な箱に閉じ込められているような気がする」と言っていました。外の人が見えても自分は彼らを理解できない、そして外の人は中に入ってこれない、そしてやはり自分のことを理解してもらえないからです。 私自身、今まで自閉症とはどのようなものかよく理解していませんでしたが、この番組によって彼らの距離が少し近くなった気がします。

もう一つ心に残ったのは、出演者の両親はじめ、家族がみな明るかったことです。もちろん大変な苦労があったのでしょうし、それを語るときに涙ぐむ人たちもいましたが、成人した子どもたちを慈しみ、応援している姿に私もなんだか元気づけられました。

 

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久しぶりの外出

 先日は娘の誕生日だったので、サンフランシスコ市民の憩いの場であるミッション・ドローレス・パークに犬のリキも連れて行ってきました。不安障害のため毎日アパートから出るのがせいいっぱいで、リキの散歩ができたら花マル日である娘にとってそれはとても勇気のいることでした。そして、車の運転が苦手な私にとっても、サンフランシスコのど真ん中に車で行って路上駐車をするということは、考えるだけで気が滅入ることだったのですが(たとえ前後に車がなくても縁石に沿って駐車するのが困難なくらい運転オンチなのです)、せっかく娘が勇気を振り絞っているのに私が怖じ気ついてはいけないと思い、行ってきました。結果的にはちゃんと駐車できて公園でピクニックを楽しむことができました。新型コロナウイルスで公園の状況はどうなんだろうと思っていたのですが、広い芝生に半径2メートルくらいの円が社会的距離をあけてチョークで描いてあって、人々はお行儀よくその円の中におさまっていました。

 思い起こせば私も普通の人以上に運転に対する不安感が強くて、2年前、初めてシリコンバレーのアパートからサンフランシスコの中心地まで運転しなくてはならない用事ができた時、前の晩は眠れなくて、当日は食事も喉を通らないくらいでした。以前、カウンセラーの先生が「運転していて交通事故に遭ったがために運転できなくなった人たちを何人も診ている、でも唯一の治療法はエクスポージャー(暴露、恐れる状況に向き合うこと)しかないんですよ」とおっしゃっていたのを思い出しました。私は大都市の(しかも坂道だらけの)サンフランシスコを運転するという恐怖、娘は外に出かけるという恐怖にそれぞれ立ち向かった1日でした。

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サンフランシスコ市民の憩いの場、ドローレス・パーク。芝生の上に社会的距離を保つための円が白いチョークで描かれていました。

 

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OCDとサプリ:NAC(Nアセチルシステイン)

 私の娘はこの2年以上、OCD(強迫性障害)とPTSDによるうつ病と不安障害(パニック障害)でふつうに生活できなくなり(外出できない、パニック発作が頻繁に起こる、食事ができないなど)この2年以上様々な治療法を試してきました。言い換えれば、これぞという効果があった治療法は見つかっていないということなのですが、目に見える効果があるというわけではなくても、摂取しないと調子が悪くなるので少なくとも娘にとってはきっと効果があるのだろう、というサプリがあります。プロバイオティクスの効果は以前にも書きましたが、娘は精神科のクリニックに勧められてOCDの治療のため、NAC(Nアセチルシステイン)を毎日摂取しています。このサプリを日本語で検索するとその働きとしてなぜか「美容と健康をサポート」という説明が出てくるのですが、OCD-JapanというNPOの「OCDと治療」というページでは、近年OCDとの関与が注目されているグルタミン酸を標的としたOCDの薬物治療の1つとしてNACが挙げられています。NACは「高価ではなく、明らかな副作用もなく、市販で手に入る薬であるので魅力的な治療の選択肢になるかもしれないが、エビデンスは限られている」とされており、どこが「魅力的」なのかといえば、強迫的または衝動的な行為障害を抑える効果を示す研究結果があるのだそうです。娘のOCDは絶え間なく侵入思考があるというものですが、侵入思考や無意識に毛を抜いたりする症状が和らぐ気がするそうです。美容と健康をサポートする一方でOCDの症状も和らげてくれるならそんなありがたい話はないので毎日摂取しています。

 「グルタミン酸」というと「味の素」と思っていた私には驚きだったのですが、グルタミン酸は興奮系の神経伝達物質でもあるのです(抑制系がギャバ【GABA】)。そしてグルタミン酸はOCDだけでなく、統合失調症を含む様々な精神神経疾患に関係があるとされています。グルタミン酸やGABAを調節するためのサプリは色々と入手可能なのですが、精神科では通常そういったサプリを推奨されることがなく、私にはそれが不思議でなりません。娘がかかっているクリニックはホリスティックな治療をする所なのでサプリも勧めてくれますが、それまでの精神科医は定番の抗うつ薬・抗不安薬を処方するだけで、「効果がない」と言っても量を増やされるだけでした。日本ではどうなのかわかりませんが、米国では精神科医は薬を処方するだけ、という気がしないでもありません。患者にあった薬がみつかるまで試行錯誤を繰り返すという感じです。そして試行錯誤を繰り返すなら、市販のサプリも試す価値があるように思えます。

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このサプリの販売元ホームページ(pureformulas.com)の説明では抗酸化作用があって肺を守ると書いてあります。(OCDに効くとはどこにも書いてありません。)

 

 

 

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精神病のオリエンテーション

 NAMI(National Alliance on Mental Illness:全米精神障害者家族連合)は、精神疾患を持つ当事者とその家族を支援するために全米で様々な啓蒙活動を行っている非営利団体です。新型コロナウイルスで世界が変わってしまう直前の3月初旬、私の住むコントラコスタ郡でNAMIが主催する精神疾患に関するオリエンテーション「Crash Course on Mental Illness」に参加しました。これは毎週開催されていて、誰でも自由に参加できる2時間ほどのクラスで、ボランティアの方がプレゼンをしてくれます。二人ほどのボランティアの方がいたのですが、お二人ともお子さんが統合失調症とのことでした。そして、その経験を通して得た知識をできるだけみんなに伝えたいという思いがひしひしと伝わってきました。

 ホットラインの電話番号から、この近くで精神科救急がある病院のリストとその詳細、救急車を呼ぶ際に注意すべきことなど、実際の体験談を交えて話があり、「サバイバルガイド」として、常に症状や診断の概要、薬のリスト、医療情報を家族に開示してもよいとの書面による意思表示(こちらでは医療の個人情報に関する規制は非常に厳しく、成人の場合は本人の合意がない限り親でも医師は話をしてくれません)、医療保険情報、主要連絡先などを用意しておくことを教えられました。ほかにも色々と、家族として知っておくべき情報や用意しておくべきことを詳細に教えてくれました。参加者は4人ほどでしたが、奥さんがパニック発作を起こして911(こちらの救急車用電話番号)に電話したという人は、「もっと前にこのクラスをとっていればよかった」と言っていました。私自身、娘の鬱がひどくなり、自殺念慮が強まって本人自ら「救急センターに連れて行ってくれ」と頼まれ、近くの救急センターに連れて行ったことがありますが、そこから遠くの病院に入院させられ、退院まで大変な思いをしたことがあります。緊急事態が発生した場合だけでなく、家族が精神疾患にかかった場合にどう対処したらよいのか、誰もが最初は途方に暮れると思います。このようなオリエンテーションはとてもありがたく思えて、「Family to family」という家族向けの講座にも登録したのですが、あいにくと新型コロナウイルスのおかげで秋まで延期になってしまいました。

 精神疾患は多くの場合治療に長くかかり、あるいは完治しないで付き合っていかなくてはならない病気もあり、本人だけでなく家族も不安をかかえながら闇の中を手探りで歩いている感じがします。私も時々孤独感に打ちのめされる時があります。そこでイーストベイに引っ越したのを機にNAMIのサポートグループに参加しようと決心したのですが、その矢先にコロナウイルスによって出鼻をくじかれてしまいました。でも秋になったら絶対に家族向けの講座に参加しようと思っています。

 NAMIには全国に多数の支部があってセミナーのほかにも様々なイベントや活動を行っており、「ピア・ツー・ピア」という当事者同士が定期的に集まって話をするグループや、家族向けのサポートグループの会合も提供しています。また、「Ending the Silence(沈黙を破る)」という50分間のプログラムを通して中高生向けに精神疾患についての啓蒙活動も行っています。NAMIによれば10−34歳の米国人口では自殺が死亡原因の第2位であり(全体では10番目)うつ病、躁うつ病、統合失調症、OCD(強迫性障害)、PTSDなどで悩んでいる人たちに、「あなたは一人じゃないんだよ」と伝え、周囲の理解を促すことは、スティグマを打ち破るためにも非常に大切な活動だと思えます。

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NAMIの刊行物の表紙で、「コネクション」「理解」「団結」「草の根」など、NAMIを象徴する様々なキーワードが散りばめられています。去年が40周年でした。

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大麻のこと

 大麻について書こうかどうか、随分迷いました。こういってはなんですが、私も娘も、「ド」がつくほど真面目な人間です。大麻など、遠い世界のことでした。けれども、鬱の海のどん底にいた娘が大麻で救われた、というのは疑いようのない事実なのです。だから大麻について、書きます。

 アメリカでは大麻合法化の動きが進み、2020年5月現在、合法化された州は12州(アラスカ、カリフォルニア、コロラド、DC、イリノイ、メイン、マサチューセッツ、ミシガン、オレゴン、バーモント、ワシントン)、非犯罪化された州(合法化ではなくても、罰則規定が適用されない)は半数以上に上ります。しかし日本では今も大麻に対する目は非常に厳しく、合法化を提唱しようものなら反社会的とみられかねない風潮のように見受けます。例えば、厚生労働省のサイトを見ると、大麻が安全であるという考えは間違っていると断言しており、他の危険な依存性薬物同様の扱いです。一方、シンクタンクであるピュー研究所によれば2019年11月現在、アメリカ人の3分の2が大麻合法化に賛成 ということです。また、ネットフリックスで見た『グラス・イズ・グリーナー:大麻が見たアメリカ』という番組では、大麻がアメリカで禁止されるようになったのは黒人差別とベトナム戦争反対の動きを抑圧しようとした政府の思惑に由来するという主張が展開されていました。1930年頃から大麻の取締が厳しくなったのは連邦麻薬局のアンスリンガー初代長官によるものでしたが、同長官の発言の多くは、今では考えられないような人種差別的なものでした。(例えば「マリワナを吸うと黒人も白人並みに偉いような気になる」など)。そしてニクソン大統領時代になると、1970年に大麻についてのシェイファー報告書で顧問委員会が大麻合法化は推奨しないものの、大麻所持は非犯罪化することが推奨されたにもかかわらず、ニクソン大統領は大麻に対する取り締まりをますます強化しました。

 大麻に対する米国人の世論が大きく変わる一つのきっかけとなったのは、てんかんをもつ少女、シャーロットちゃんの話がテレビで放映されたためだといわれています。様々な薬が効かなかったこの少女のてんかんに大麻のCBD成分(精神に作用しない、つまり「ハイ」にならない成分)が効くことがわかり、シャーロットちゃんが医療用大麻運動の顔となったのだそうです。(残念なことにこの少女は2020年4月に13歳で亡くなったそうですが・・・。)

 シャーロットちゃんのてんかんの発作をなんとか抑えようと、最初はためらいながらも藁にもすがる思いで医療大麻を試した両親の気持ちが私にはわかるような気がします。私の娘はもう2年以上、十種類以上の抗うつ剤を飲み、カウンセリングや認知療法も行なっていますが、さしたる効果はなく、TMS治療やケタミン治療も短期間で効果が薄れてしまいます。しかし、大麻を摂取することで数時間ですが気分が楽になり、食欲が出るのです。外出して友人に会ったりもできるようになります。大麻がなかったらほとんど食べることができなくて栄養失調で入院していたかもしれません。

 ただ、大麻は比較的安全と言われているアメリカでも、脳がまだ発達段階にある若者の常習は脳に影響するとか、遺伝的に精神疾患にかかりやすい人は、常習するとより精神疾患を発症しやすいということは言われています。ですから、大麻が絶対安全かというと、私にはわかりかねるのですが、少なくとも私の娘の場合、大麻に救われていることは確かなのです。

 大麻が安全かどうか、どうしてこれほど意見が分かれるのか不思議でならないのですが、それは多分、政治的な理由と、大麻が違法薬物であるがために(米国でも連邦レベルではまだ非合法)研究が進んでいないからではないかと思うのです。前回このブログでスティグマについて書きましたが、大麻に関しても「大麻=悪」というスティグマがその研究を阻んでいるとしか思えません。私の娘は医療目的の大麻使用者として郡のお役所からお墨付きを得てはいるものの、別に処方を受けるわけではなく自分で大麻販売店に行って自由に購入し、使用量などは手探り状態です。セラピストに「大麻専門医はいないでしょうか」と尋ねたら、「大麻はずっと違法だったからそれを専門にする医師はいないのでは」と言われました。もちろんハイになるために娯楽で大麻を使う人も多いでしょうが、体の痛みや鬱、不安症をかかえ、大麻で束の間の平安を得ている人たちも多くいます。新型コロナウイルスのため大半の小売店が閉鎖を余儀なくされるロックダウン時でも、大麻販売店が不可欠なビジネスとされるのは、大麻の医療面での効能が不可欠であるためのようです。また、大麻の主成分には精神に作用する(「ハイ」な状態になる)THCと精神には作用しないCBDがあり、CBDは日本でも合法です。これからも大麻の研究が進んで、より安全な治療の道が開けることを私は願っています。

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左から、CBD100%の痛み止めクリーム、THC成分が入った錠剤(医薬品ではありません)、CBDオイル。

 

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『躁うつ病を生きる』

 1995年の本ですが、『An Unquiet Mind』(邦題:『躁うつ病を生きる―わたしはこの残酷で魅惑的な病気を愛せるか?』という本を読みました。著者は躁うつ病を患い、自殺未遂までしながらジョンズ・ホプキンス大学医学部の教授となり、躁うつ病の治療研究をしているケイ・レッドフィールド・ジャミソンという女性です。躁状態とうつ状態を繰り返しつつ、躁うつ病がわかれば恋人が去っていくのではないか、大学での地位を追われるのではないかという恐怖を抱きつつも、恋もし、すばらしい夫に恵まれ、躁うつ病治療の権威となるまでに上り詰めました。彼女の場合は、家族・恋人・夫にしてもUCLAやジョンズ・ホプキンズ大学の同僚にしてもとても理解があり、そうした人々に支えられたからこそ、そこまでできたのであろうとは思うのですが、それでもその苦悩は計り知れず、人生をとことん生きている姿に心を打たれます。そして一番心に残ったのは、躁うつ病を持つかどうか選ぶことができるとしたら、(症状を抑えられる治療法がある限り、という条件付きですが)躁うつ病を持つことを選ぶだろう、と言っていることです。彼女は、自分が躁うつ病であるからこそ、人生を色濃く生きてきたと言います。激しい恋をし、物事を人一倍強く感じ、経験はより深く心に刻まれる。死にたいと思ったことはあっても、生まれてこなければよかったと思ったことはない、命を授かったことを感謝している、と。それで、邦題には「魅惑的な病気」となっているのだな、と納得しました。そんなふうに思える彼女は幸運な境遇なのかもしれません。けれども、躁うつ病や統合失調症と芸術的創造性との遺伝的な関連性について、科学的な研究も行われているようで、彼女が言うように、躁うつ病の遺伝子がなくなったら世界はもっと色あせてしまうのかもしれません。

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