精神病のオリエンテーション

 NAMI(National Alliance on Mental Illness:全米精神障害者家族連合)は、精神疾患を持つ当事者とその家族を支援するために全米で様々な啓蒙活動を行っている非営利団体です。新型コロナウイルスで世界が変わってしまう直前の3月初旬、私の住むコントラコスタ郡でNAMIが主催する精神疾患に関するオリエンテーション「Crash Course on Mental Illness」に参加しました。これは毎週開催されていて、誰でも自由に参加できる2時間ほどのクラスで、ボランティアの方がプレゼンをしてくれます。二人ほどのボランティアの方がいたのですが、お二人ともお子さんが統合失調症とのことでした。そして、その経験を通して得た知識をできるだけみんなに伝えたいという思いがひしひしと伝わってきました。

 ホットラインの電話番号から、この近くで精神科救急がある病院のリストとその詳細、救急車を呼ぶ際に注意すべきことなど、実際の体験談を交えて話があり、「サバイバルガイド」として、常に症状や診断の概要、薬のリスト、医療情報を家族に開示してもよいとの書面による意思表示(こちらでは医療の個人情報に関する規制は非常に厳しく、成人の場合は本人の合意がない限り親でも医師は話をしてくれません)、医療保険情報、主要連絡先などを用意しておくことを教えられました。ほかにも色々と、家族として知っておくべき情報や用意しておくべきことを詳細に教えてくれました。参加者は4人ほどでしたが、奥さんがパニック発作を起こして911(こちらの救急車用電話番号)に電話したという人は、「もっと前にこのクラスをとっていればよかった」と言っていました。私自身、娘の鬱がひどくなり、自殺念慮が強まって本人自ら「救急センターに連れて行ってくれ」と頼まれ、近くの救急センターに連れて行ったことがありますが、そこから遠くの病院に入院させられ、退院まで大変な思いをしたことがあります。緊急事態が発生した場合だけでなく、家族が精神疾患にかかった場合にどう対処したらよいのか、誰もが最初は途方に暮れると思います。このようなオリエンテーションはとてもありがたく思えて、「Family to family」という家族向けの講座にも登録したのですが、あいにくと新型コロナウイルスのおかげで秋まで延期になってしまいました。

 精神疾患は多くの場合治療に長くかかり、あるいは完治しないで付き合っていかなくてはならない病気もあり、本人だけでなく家族も不安をかかえながら闇の中を手探りで歩いている感じがします。私も時々孤独感に打ちのめされる時があります。そこでイーストベイに引っ越したのを機にNAMIのサポートグループに参加しようと決心したのですが、その矢先にコロナウイルスによって出鼻をくじかれてしまいました。でも秋になったら絶対に家族向けの講座に参加しようと思っています。

 NAMIには全国に多数の支部があってセミナーのほかにも様々なイベントや活動を行っており、「ピア・ツー・ピア」という当事者同士が定期的に集まって話をするグループや、家族向けのサポートグループの会合も提供しています。また、「Ending the Silence(沈黙を破る)」という50分間のプログラムを通して中高生向けに精神疾患についての啓蒙活動も行っています。NAMIによれば10−34歳の米国人口では自殺が死亡原因の第2位であり(全体では10番目)うつ病、躁うつ病、統合失調症、OCD(強迫性障害)、PTSDなどで悩んでいる人たちに、「あなたは一人じゃないんだよ」と伝え、周囲の理解を促すことは、スティグマを打ち破るためにも非常に大切な活動だと思えます。

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NAMIの刊行物の表紙で、「コネクション」「理解」「団結」「草の根」など、NAMIを象徴する様々なキーワードが散りばめられています。去年が40周年でした。

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