大麻のこと

 大麻について書こうかどうか、随分迷いました。こういってはなんですが、私も娘も、「ド」がつくほど真面目な人間です。大麻など、遠い世界のことでした。けれども、鬱の海のどん底にいた娘が大麻で救われた、というのは疑いようのない事実なのです。だから大麻について、書きます。

 アメリカでは大麻合法化の動きが進み、2020年5月現在、合法化された州は12州(アラスカ、カリフォルニア、コロラド、DC、イリノイ、メイン、マサチューセッツ、ミシガン、オレゴン、バーモント、ワシントン)、非犯罪化された州(合法化ではなくても、罰則規定が適用されない)は半数以上に上ります。しかし日本では今も大麻に対する目は非常に厳しく、合法化を提唱しようものなら反社会的とみられかねない風潮のように見受けます。例えば、厚生労働省のサイトを見ると、大麻が安全であるという考えは間違っていると断言しており、他の危険な依存性薬物同様の扱いです。一方、シンクタンクであるピュー研究所によれば2019年11月現在、アメリカ人の3分の2が大麻合法化に賛成 ということです。また、ネットフリックスで見た『グラス・イズ・グリーナー:大麻が見たアメリカ』という番組では、大麻がアメリカで禁止されるようになったのは黒人差別とベトナム戦争反対の動きを抑圧しようとした政府の思惑に由来するという主張が展開されていました。1930年頃から大麻の取締が厳しくなったのは連邦麻薬局のアンスリンガー初代長官によるものでしたが、同長官の発言の多くは、今では考えられないような人種差別的なものでした。(例えば「マリワナを吸うと黒人も白人並みに偉いような気になる」など)。そしてニクソン大統領時代になると、1970年に大麻についてのシェイファー報告書で顧問委員会が大麻合法化は推奨しないものの、大麻所持は非犯罪化することが推奨されたにもかかわらず、ニクソン大統領は大麻に対する取り締まりをますます強化しました。

 大麻に対する米国人の世論が大きく変わる一つのきっかけとなったのは、てんかんをもつ少女、シャーロットちゃんの話がテレビで放映されたためだといわれています。様々な薬が効かなかったこの少女のてんかんに大麻のCBD成分(精神に作用しない、つまり「ハイ」にならない成分)が効くことがわかり、シャーロットちゃんが医療用大麻運動の顔となったのだそうです。(残念なことにこの少女は2020年4月に13歳で亡くなったそうですが・・・。)

 シャーロットちゃんのてんかんの発作をなんとか抑えようと、最初はためらいながらも藁にもすがる思いで医療大麻を試した両親の気持ちが私にはわかるような気がします。私の娘はもう2年以上、十種類以上の抗うつ剤を飲み、カウンセリングや認知療法も行なっていますが、さしたる効果はなく、TMS治療やケタミン治療も短期間で効果が薄れてしまいます。しかし、大麻を摂取することで数時間ですが気分が楽になり、食欲が出るのです。外出して友人に会ったりもできるようになります。大麻がなかったらほとんど食べることができなくて栄養失調で入院していたかもしれません。

 ただ、大麻は比較的安全と言われているアメリカでも、脳がまだ発達段階にある若者の常習は脳に影響するとか、遺伝的に精神疾患にかかりやすい人は、常習するとより精神疾患を発症しやすいということは言われています。ですから、大麻が絶対安全かというと、私にはわかりかねるのですが、少なくとも私の娘の場合、大麻に救われていることは確かなのです。

 大麻が安全かどうか、どうしてこれほど意見が分かれるのか不思議でならないのですが、それは多分、政治的な理由と、大麻が違法薬物であるがために(米国でも連邦レベルではまだ非合法)研究が進んでいないからではないかと思うのです。前回このブログでスティグマについて書きましたが、大麻に関しても「大麻=悪」というスティグマがその研究を阻んでいるとしか思えません。私の娘は医療目的の大麻使用者として郡のお役所からお墨付きを得てはいるものの、別に処方を受けるわけではなく自分で大麻販売店に行って自由に購入し、使用量などは手探り状態です。セラピストに「大麻専門医はいないでしょうか」と尋ねたら、「大麻はずっと違法だったからそれを専門にする医師はいないのでは」と言われました。もちろんハイになるために娯楽で大麻を使う人も多いでしょうが、体の痛みや鬱、不安症をかかえ、大麻で束の間の平安を得ている人たちも多くいます。新型コロナウイルスのため大半の小売店が閉鎖を余儀なくされるロックダウン時でも、大麻販売店が不可欠なビジネスとされるのは、大麻の医療面での効能が不可欠であるためのようです。また、大麻の主成分には精神に作用する(「ハイ」な状態になる)THCと精神には作用しないCBDがあり、CBDは日本でも合法です。これからも大麻の研究が進んで、より安全な治療の道が開けることを私は願っています。

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左から、CBD100%の痛み止めクリーム、THC成分が入った錠剤(医薬品ではありません)、CBDオイル。

 

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