「怒れる少女」グレタ・トゥーンベリ

 最近、スウェーデンの環境保護活動家で「怒れる少女」グレタ・トゥーンベリのドキュメンタリー『I Am Greta』を見ました。グレタが2019年に行った国連の演説は有名で、彼女が環境保護運動で果たしている役割は誰もが認めるところだと思いますが、グレタはアスペルガー症候群、強迫性障害(OCD)、選択性緘黙(かんもく)症(特定の状況で話すことができなくなる疾患)であることを公表しています。

 そして、(2019年のことですが)そのグレタをマイケル・ノウルズという政治評論家があるテレビ番組で「精神を病んでいる(mentally ill)スゥエーデンの子供」と評したのです。その後、ノウルズの発言に対する批判が巻き起こり、テレビ局(フォックス)は謝罪することになりました。番組内ではその発言に対して別の出演者が「You're a grown man and you're attacking a child. Shame on you.(大人のくせに子供を攻撃するとは、恥を知れ)」と反撃、それに対してノウルズは「I'm not. I'm attacking the Left for exploiting a mentally ill child(彼女を攻撃しているわけではない。精神病の子供を利用している左翼を攻撃しているのだ)」として、さらに「She is mentally ill. She has autism. She has obsessive–compulsive disorder. She has selective mutism. She had depression. (彼女は精神病だ。自閉症で、強迫性障害(OCD)、選択性緘黙症があり、以前は鬱病でもあった)」と言いました。「mentally ill」という言葉自体は差別用語ではないと思いますが、私はグレタを否定する発言の中でノウルズが精神病を持ち出したことが許せませんでした。ちなみに英国自閉症学会はノウルズの発言を非難するツイートの中で、自閉症(またはアスペルガー)はメンタルヘルスの病気ではないと言っていますし、グレタの場合はアスペルガーであることがかえって彼女の活動の原動力となっているようですが、たとえもし精神病であったとしても、だからといって環境保護を訴える意志や能力を否定するのは無知からくる差別的発言としか思えません。

 グレタは、ドキュメンタリーの中で、「アスペルガーを患っているということですが…」と切り出したインタビュアーに対して「患っているのではない(not suffering)、持っているのです(I have it)」と訂正しました。グレタは、アスペルガーは一つの才能、「スーパーパワー」だとも言っているそうですが、なるほど、アスペルガーだからこそ、1つの事柄をとことん突き止めて、ここまでのめり込めることができるのでしょう。また、環境保護を謳いつつ経済優先で物事を勧める大人が許せないという一途なところも、行動を起こす原動力になっているのだと思います。一方で、涙を浮かべて大人たちを糾弾し「あなたたちを許さない」と怒りをあらわにしているグレタに拍手している大人たち、「娘があなたの大ファンです。セルフィー撮ってくれますか」とすり寄ってくる大人たちに私は違和感を覚えました。彼女は本心から地球のことを心配してそれを自分の生死にかかわる問題だと受け止めているのではないかと思うのですが、ニコニコ顔の大人たちはそれをわかっていないのではないか、自分たちの過ちとは思っていないのではないか、と。また、若者たちの間で鬱病が増えているのも、地球の温暖化、環境破壊、貧富の差の拡大など将来に希望が持てなくなっていることが一つの原因ではないかと考えます。グレタを子どもたちの恐怖を煽る扇動者のように避難する人達もいますが、若者が未来に悲観的なのははグレタのせいではなくて、気候変動という事実でしょう。私達の大半は、環境破壊を憂いつつも、車を運転し、多くのゴミを出し、食べ物を無駄にして、ある程度妥協しながら生きています。妥協できずに生きていくのはつらいことでしょう。けれどもグレタは自分のアスペルガーを「Gift」だと言っている、そうしたメッセージを発信していることもまた、彼女の功績だと思います。

 

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