睡眠相後退症候群

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犬にも不安症や鬱はあるそうですが、睡眠障害はなさそう・・・


 1年ほど前ですが、朝日新聞デジタルに「朝起きられず、昼夜が逆転 背後に潜んでいた二つの病気」という記事がありました。この記事の女子高生は、「起立性調整障害」と「睡眠相後退症候群」という二つの病気によって朝起きられず、不登校になったそうです。私の娘も、実は睡眠相後退症候群(Delayed sleep-phase syndrome; DSPS)ではないかと思っています。なにしろ朝、起きられない。そして夜遅く、というか未明まで眠ることができない。朝、起きても体がだるくて何もできないという状況が、考えてみたら昔から続いていたような気がします。

 鬱と不安障害を発症してからは、毎晩夜になると不安が増していました。夜は寝なくてはならない、けれども目が冴えて眠れない。やっと眠れても恐ろしい悪夢をみてしまう。夜の歯磨きをしようとするだけでパニック発作になったり、真夜中に不安が高まって吐いたりすることがしょっちゅうでした。ところが「別に夜寝て朝起きなくてもいいのでは」と発想を変えたら、ずっと気が楽になって夜中に吐くことがなくなったのです。以前私は、ある作家がインタビューで、夜中から未明まで仕事をしてその後昼まで寝るのが日課だと言っていたのを思い出しました。世界は朝起きて夜寝る人たちを中心に回っていますが、そうでない人だっているのです。もしかしたらこれは障害とすらいえないかもしれない。ダイバーシティ(多様性)が尊重されるこの世の中、夜に生産的になる、そういう体内時計の人たちもいるんだ、と考えればよいのでは。今は在宅勤務が普通になり、ビジネスはグローバルになり、夜中にできる仕事もたくさんあります。学校だって、もしかしたらそのうちオンラインで夜に授業を受けられるようになるかもしれない、というかそうなってほしい。娘が高校生のとき不登校になったのも、もしかしたらこれが一因だったかもしれません。朝起きられないのは、怠惰だからじゃない。そのことを当時の私は理解していませんでした。

  睡眠相後退症候群は概日リズム睡眠障害の1つだそうで、「概日リズム」とは、約24時間周期の生理現象、いわゆる体内時計のようなものです。米国の「Circadian Sleep Disorders Network(概日リズム睡眠障害ネットワーク)」という団体は概日リズム睡眠障害についてより多くの人に知ってもらうべく活動しているようで、パンフレット(英語)を配布してほしいと訴えています。裏返して言えば、睡眠相後退症候群はアメリカでもまだよく理解されていないのかもしれません。何しろ世の中は「普通の」生活リズムに適応できる人々によって回っているのですから。

 精神疾患を発症して睡眠障害になるのか、それとも睡眠障害のために精神疾患を発症するのか、それは鶏が先か卵が先かという類の問題ですが、関係性があることは確かなようです。そして、体内時計が一般に受け入れられているリズムと異なるがために不登校になったり引きこもりになったりする人々が実は多いのではないか、と思わずにはいられません。もしそうならば、治療方法だけでなく、そうした人たちが生きやすいように世の中の仕組みを少し変えることを考えてもよいのではないでしょうか。

  

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スティグマ

 「偏見」という言葉、英語にすると「prejudice」とか「bias」になるのでしょうが、「精神疾患に対する偏見」を考える場合、「stigma」の方がふさわしいような気がします。「stigma」の辞書での訳は「汚名」や「烙印」、ギリシャ語で奴隷や犯罪者の体に刻印されたしるしが語源なのだそうです。英英辞典(https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/stigma)では、「a strong feeling of disapproval that most people in a society have about something, especially when this is unfair(ある社会の人々が何かについて強く感じる否定的な感情で、特にそれが不当なものである場合)」となっています。日本語では「社会的スティグマ」という言葉の方が一般的のようで、今世界中が大変なことになっている新型コロナウイルスに関して、「社会的スティグマの防止と対応について」という、政府や報道機関、地域の組織向けガイドラインがWHO(世界保健機関)、UNICEF、国際赤十字合同で出ていました。その非公式日本語訳(https://extranet.who.int/kobe_centre/sites/default/files/pdf/20200224_JA_Stigma_IFRC_UNICEF_WHO.pdf)によれば、スティグマは、

  • 差別を避けるために疾患を隠すよう人々を駆り立て 
  • 人々がすぐに医療を受けることを阻害し
  • 人々が健康的な行動をとる意欲を損なわせる

とされています。これはまさに精神疾患にもあてはまるもので、私はスティグマが精神疾患治療の大きな阻害要因だと思っています。私自身、娘が高校生の頃にうつ病になり学校に行けなくなったとき、まさか自分の娘が鬱になるはずはない、単にストレスがたまっているのだろうと思い込んで、すぐに精神科に連れていくことをしませんでした。あの時もっと積極的に様々な治療方法を探せばよかったと悔やんでも後の祭りです。娘が精神を病んでいるという事実を受け入れるまでに、私には残念ながら何年もかかりました。やっとそれを受け入れて、スティグマをなくすために何かしたい、とりあえず自分からオープンに話すことを実践しようと始めたのがこのブログでした。娘からも「自分のことは何でも語ってくれていいから」と背中を押されました。

 そして、本人自身が内側に抱えるスティグマもまた、回復を阻むのだと思います。うつ病になるのは精神が弱いからではないのです。誰にでも起こりうる病気なのです。そして、ただ生きる、暮らすためだけに人一倍努力しなくてはならない。それでも自分を責めてしまう、罪悪感をもってしまう、恥ずかしいと思う、そういった感情がますます負のスパイラルとなってしまうように思います。特に日本人は国民性として「申し訳ない」という気持ちがつい先に立ってしまう。娘はアメリカ人ですが、気質は日本人に近く、今二人の間ではお互いになるべく「I'm sorry」と言わないようにしよう、と約束しています。

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「One day, in retrospect, the years of struggle will strike you as the most beautiful. (苦悩の日々が実は最も美しい日々だったと思える日がいつかくる)」ーフロイト

 

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TMS治療(経頭蓋磁気刺激法)

昨年(2019年)、日本でもうつ病のTMS(transcranial magnetic stimulation:経頭蓋磁気刺激法)治療に保険が適用されることになりました。(「ヨミドクター」の2019年6月19日付け記事:https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20190619-OYTET50000/)。これは、抗うつ剤が効かない難治性のうつ病患者に対して頭部に磁気刺激を与える治療法で、アメリカでは2008年にFDA(食品医薬品局)から承認され、「ニューロスター」というメーカーの場合は10年で約6万人の治療実績があるそうです。(ほかにも様々なメーカーがあるので、全体的な数値はわかりません。)私のまわりでもTMSを試して効果がみられた人が何人かいます。娘も抗うつ剤を何種類も試した結果効果がなかったのでTMSを試すことにしました。

その前に、まずは保険の事前承認を受ける必要があります。自分で全額払うなら問題ないのでしょうが、高額治療なのでなかなか自分で払える人は多くありません。娘の通ったクリニックでは1回380ドルの治療を週5回、計30回以上行うので、総額は軽く100万円を超えることになりました。興味深いことに、上記の記事によると日本では保険点数が1回1万2000円となっています。アメリカの医療費はここでも突出しているようです。そして、その事前承認を受けるまでがまた、大変でした。数十ページにもわたる質問票に状況を詳細に回答してから今まで使った薬を全部列挙してクリニックに提出し、抗うつ剤が効かなかったことを証明する必要があるのです。もしかしたらここで挫折する人がいるのではないかと思うくらいでした。

なんとかそれでも承認をもらって、治療を開始しました。TMSはうつ病治療が主で、強迫性障害を適応症とするTMS治療の有効性はまだ研究段階のようですが、娘の行ったクリニックでは強迫性障害治療もしてくれました。適応症によって磁気をあてる部位が異なるようで、うつ病のための治療だけだと1回が20分程度でしたが、強迫性障害の治療を追加するとその倍ほどかかりました。残念ながら強迫性障害の治療はうまくいかず中断しましたが、それでも全体的な気分を測定するチャートでは、うつ病に50%くらい改善がみられたようです。娘の強迫性障害は侵入思考に悩まされるものなのですが、それが静かになった気がする、と言っていました。

娘の強迫性障害治療がうまくいかなかったのは、主に治療時に無意識に手足が反応することが原因でした。それが治療に対する不安感を増して、治療中にパニック発作を起こすようになったのです。私は医療知識を持ち合わせていないので詳細を説明するのは躊躇されるのですが、磁気をあてる部位によって、効果が異なるようです。クリニックの説明によれば、右側の脳に磁気をあてるのは脳の神経活動を抑えるため、左側の脳にあてるのは脳を活性化させるため、そして真ん中あたりが強迫性障害の治療のため、ということで、娘の場合は最初は左側を治療していたのですが、うつ状態が悪化したので右側に切り替えました。

娘の行ったクリニックの「よくある質問(FAQ)」ページ(英語:https://www.baytms.com/faqs)によれば、TMS治療後は数カ月から数年効果が持続するらしいのですが、娘の場合、残念ながら数カ月もしないうちにまた元に戻ってしまいました。「メンテナンス」治療として再び治療するとよいらしいのですが、娘は仕事をできる状態でなく退職して健康保険が会社がスポンサーとなる保険から公的保険に変わったため、TMSは適用外で、今のところ再治療の目処はたっていません。同じFAQページによれば、TMSはうつ病以外にも、双極性障害から不安障害、PTSD、慢性疼痛、偏頭痛、線維筋痛症、幻聴、耳鳴りなど、様々な障害の治療法として研究が進められているようです。

そして最後に、娘の強迫性障害治療は中断されてしまいましたが、知り合いのお子さんはスタンフォード大学のプログラムでTMSによる強迫障害治療を受けて、よい結果が出ていることを付け加えておきたいと思います。

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ケタミン

ここ数年、麻酔剤のケタミンが画期的な抗うつ剤候補として注目を浴びています。他の抗うつ剤や治療法では、効果があったとしても効果が現れるまでに数週間から数カ月かかかる場合が多いのですが、ケタミンは即効性があります。うつ病の治療に使われるケタミンには、注射(または点滴)によるもの(R型とS型の混合)と、鼻からスプレーで噴霧するタイプ(S型)があり、スプレータイプは2019年3月に米国の食品医薬品局から承認が下りました(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-03-06/PNXBQA6S972801)。しかし、どうしてケタミンがうつ病に有効なのか、どちらのタイプの方がより効果があるのか、長期使用による副作用はどのようなものなのか、まだ不明な点が多いようです。(参考サイト【英語】:https://www.health.harvard.edu/blog/ketamine-for-major-depression-new-tool-new-questions-2019052216673)また、古い記事ですが2017年には日経新聞に「麻酔薬ケタミン、抗うつ薬へ研究〜即効性が強み」という記事もありました(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO17367510W7A600C1X90000/)。

 

私の娘も2018年にケタミン治療を試しました。他の薬が効かず、当時かかっていた精神科クリニックからカウンセリングも同時にしてくれるケタミンクリニックを紹介してもらったのです。シリコンバレーには流れ作業のようにケタミンを点滴するクリニックもあるようで、1回650ドル〜700ドル(7万円程度)で6回ワンセット「現金払いでお願いします」という感じでした。上述のFDA認可の薬はどうか知りませんが、ケタミン注射は保険適用外なので自己負担です。けれども藁にもすがる思いで、そんな魔法みたいな薬なら、と試してみることにしたのです。

結果は、期待していたほどではありませんでした。確かに即効性はあるのですが、娘の場合は効果が持続せず、数日で元に戻ってしまうのです。けれども、別途処方してもらった鼻からのスプレーはパニック発作に即効性があり、欠かせない薬となっています。脳に働く効果は確かにあるので、医薬品会社にはぜひ開発を進めてほしいし、もっとふつうに手の届く価格になってほしいと思っているのですが、上述の日経新聞の記事から3年経った今も、状況はあまり変わっていない感じです。

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加重ブランケット

先日、『テンプル・グランディン 自閉症とともに』という映画を見ました。テンプル・グランディンは自閉症を抱えながら博士号をとり、コロラド州立大学で動物学を教え、自閉症啓発活動を行っている女性です。屠殺される家畜が静かな気持ちで最期を迎えられるよう、人道的な屠畜施設を設計したことで有名ですが、「締め付け機(Hug machineまたは squeeze machine)」というものも発明しました。牧場を経営するおばの家に滞在中、興奮状態の家畜を静めるために使われていた締め付け機にヒントを得て自分のためにハグマシーンを開発したのです。箱状の装置の中に体ごと入って体を締め付けることで、リラックスできる装置です。そして、この体を圧迫して精神をリラックスさせるというコンセプトが、どうやら「加重ブランケット(weighted blanket)」の発明につながったようです。加重ブランケットとは、5〜10キロ程度の重さがあるブランケットで、一般的には体重の10%程度のものを選ぶとよいと言われています。加重ブランケットはリラックス効果のほか、ADHD(注意欠如・多動性障害)や、RLS(restless legs syndrome、むずむず足症候群)に効果があると言われているようです。

娘は不安感が増した時にこのブランケットを使用します。やはりだからといって不安が解消するわけではありませんが、多少落ち着くようです。その鎮静効果は、DTP(Deep Touch Pressure)と呼ばれる方法と同じで、体の表面に圧力を加えることで気持ちが落ち着くのだそうです。確かに赤ちゃんをしっかり包む「おくるみ」も、それに通じるのかもしれません。そしてなんと、犬用にも加重ベストがあります。犬でも体表面に圧力を加えることで不安感が和らぐことがあるのですね。

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娘が作った、不安になった時の対処「メニュー」





 

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プロバイオティクス

娘は多種多様な抗うつ剤・抗不安剤を試してきましたが、どれも今ひとつ効果がありませんでした。これを治療抵抗性うつ病(TRD: treatment-resistant depression)というそうです。(ちなみにTMS【経頭蓋磁気刺激法】を保険申請する際は、治療抵抗性であることを示す必要がありました。高額治療なので、保険会社としてはまず薬での治療をしてみてだめだったらお金を払う、という感じです。)そして、様々な薬やサプリを試してきた中で、パニック発作に即効性のあるケタミンスプレー以外、一番効果が目に見えたのは、実はプロバイオティクス(腸内善玉菌)でした。腸は今では「第二の脳」とも言われ、腸と脳との関係が注目されているようです。娘の場合は鬱病が改善したわけではないのですが、IBS(過敏性腸症候群)で子供の頃から腸が弱く、毎日のように下痢をしていた娘にとって腸が整うということは、それだけで一つの安心材料となるようで、今では毎日欠かさず服用しています。プロバイオティクスはキムチやザワークラウトなどの発酵食品に多く含まれていますが、娘が服用しているのは精神科クリニックで推奨された「VSL#3」というブランドで、8種類の菌が1カプセル当たり1125億個入っており、注文するとクール便で届きます。お値段は60カプセルで63.52ドルとかなり高価ですがそれなりの価値があると私は思っています。ただ、服用方法を見ると、「1日1錠〜16錠」とあって、びっくり…。また、菌の数が多ければよいというものでもなく、自分にあった菌の種類が見つかるまでは試行錯誤が必要かもしれません。

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毎日服用。私はVSL#3の回し者ではありませんが、ご参考までに。

 

共依存

私が娘の世話のためカリフォルニア州に来てから2年以上経ちました。今の私の目的は、いつか私がこの世を去ったときに娘が一人でも暮らしていけるようにしてやること。でも今は、みためはふつうでも、ふつうの人ができることができない。だから私がほとんど身の回りの世話をしています。そこで陥ってはいけないのが共依存の関係です。共依存とは、互いに過剰に依存しあって、自分を見失っている不健康な関係だと、私は解釈しています。そして、共依存親子でいる限り、どちらも自立はできないのだ、と。CoDA(Co-dependents Anonymous)という共依存からの回復を目指す自助グループのパンフで自分に思い当たる項目があまりにたくさんありました。そしてその中には、日本で美徳とされる特徴も多くあります。例えば:

  • 自分の真の気持ちを押し殺す
  • 自分を無私の献身的な人間だと思う
  • 自分は誰からの助けも必要ないと思う
  • 自分のことは差し置いて、常に相手の欲求を優先する
  • 衝突を避けるためにはっきりものを言わない

などなど(https://coda.org/meeting-materials/patterns-and-characteristics-2011/)。

私の大好きな宮沢賢治の「雨ニモ負ケズ」はもしかしたら共依存そのものかもしれません。「慾ハナク」「アラユルコトヲ ジブンヲカンジョウニ入レズニ」「ミンナニデクノボートヨバレ」みんなを助けて自分は静かに笑っている、そいうものになりたい、というのですから。特に日本では常に自分より家族を優先するのが理想の母親像のようになっていて、私も知らず知らずそうなり、自分が一体何をしたいのかわからなくなっていたような気がします。

「私の幸せは、あなたが幸せになることだよ」と言っていた自分。それではだめなのだと気が付きました。私の幸せは、私自身がみつけなくてはいけない。そうでなければ、相手も幸せになれない。でも、自分自身の幸せをみつけること、それは意外に難しいことなのです。

 

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