スティグマ

 「偏見」という言葉、英語にすると「prejudice」とか「bias」になるのでしょうが、「精神疾患に対する偏見」を考える場合、「stigma」の方がふさわしいような気がします。「stigma」の辞書での訳は「汚名」や「烙印」、ギリシャ語で奴隷や犯罪者の体に刻印されたしるしが語源なのだそうです。英英辞典(https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/stigma)では、「a strong feeling of disapproval that most people in a society have about something, especially when this is unfair(ある社会の人々が何かについて強く感じる否定的な感情で、特にそれが不当なものである場合)」となっています。日本語では「社会的スティグマ」という言葉の方が一般的のようで、今世界中が大変なことになっている新型コロナウイルスに関して、「社会的スティグマの防止と対応について」という、政府や報道機関、地域の組織向けガイドラインがWHO(世界保健機関)、UNICEF、国際赤十字合同で出ていました。その非公式日本語訳(https://extranet.who.int/kobe_centre/sites/default/files/pdf/20200224_JA_Stigma_IFRC_UNICEF_WHO.pdf)によれば、スティグマは、

  • 差別を避けるために疾患を隠すよう人々を駆り立て 
  • 人々がすぐに医療を受けることを阻害し
  • 人々が健康的な行動をとる意欲を損なわせる

とされています。これはまさに精神疾患にもあてはまるもので、私はスティグマが精神疾患治療の大きな阻害要因だと思っています。私自身、娘が高校生の頃にうつ病になり学校に行けなくなったとき、まさか自分の娘が鬱になるはずはない、単にストレスがたまっているのだろうと思い込んで、すぐに精神科に連れていくことをしませんでした。あの時もっと積極的に様々な治療方法を探せばよかったと悔やんでも後の祭りです。娘が精神を病んでいるという事実を受け入れるまでに、私には残念ながら何年もかかりました。やっとそれを受け入れて、スティグマをなくすために何かしたい、とりあえず自分からオープンに話すことを実践しようと始めたのがこのブログでした。娘からも「自分のことは何でも語ってくれていいから」と背中を押されました。

 そして、本人自身が内側に抱えるスティグマもまた、回復を阻むのだと思います。うつ病になるのは精神が弱いからではないのです。誰にでも起こりうる病気なのです。そして、ただ生きる、暮らすためだけに人一倍努力しなくてはならない。それでも自分を責めてしまう、罪悪感をもってしまう、恥ずかしいと思う、そういった感情がますます負のスパイラルとなってしまうように思います。特に日本人は国民性として「申し訳ない」という気持ちがつい先に立ってしまう。娘はアメリカ人ですが、気質は日本人に近く、今二人の間ではお互いになるべく「I'm sorry」と言わないようにしよう、と約束しています。

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「One day, in retrospect, the years of struggle will strike you as the most beautiful. (苦悩の日々が実は最も美しい日々だったと思える日がいつかくる)」ーフロイト

 

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