TMS治療(経頭蓋磁気刺激法)

昨年(2019年)、日本でもうつ病のTMS(transcranial magnetic stimulation:経頭蓋磁気刺激法)治療に保険が適用されることになりました。(「ヨミドクター」の2019年6月19日付け記事:https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20190619-OYTET50000/)。これは、抗うつ剤が効かない難治性のうつ病患者に対して頭部に磁気刺激を与える治療法で、アメリカでは2008年にFDA(食品医薬品局)から承認され、「ニューロスター」というメーカーの場合は10年で約6万人の治療実績があるそうです。(ほかにも様々なメーカーがあるので、全体的な数値はわかりません。)私のまわりでもTMSを試して効果がみられた人が何人かいます。娘も抗うつ剤を何種類も試した結果効果がなかったのでTMSを試すことにしました。

その前に、まずは保険の事前承認を受ける必要があります。自分で全額払うなら問題ないのでしょうが、高額治療なのでなかなか自分で払える人は多くありません。娘の通ったクリニックでは1回380ドルの治療を週5回、計30回以上行うので、総額は軽く100万円を超えることになりました。興味深いことに、上記の記事によると日本では保険点数が1回1万2000円となっています。アメリカの医療費はここでも突出しているようです。そして、その事前承認を受けるまでがまた、大変でした。数十ページにもわたる質問票に状況を詳細に回答してから今まで使った薬を全部列挙してクリニックに提出し、抗うつ剤が効かなかったことを証明する必要があるのです。もしかしたらここで挫折する人がいるのではないかと思うくらいでした。

なんとかそれでも承認をもらって、治療を開始しました。TMSはうつ病治療が主で、強迫性障害を適応症とするTMS治療の有効性はまだ研究段階のようですが、娘の行ったクリニックでは強迫性障害治療もしてくれました。適応症によって磁気をあてる部位が異なるようで、うつ病のための治療だけだと1回が20分程度でしたが、強迫性障害の治療を追加するとその倍ほどかかりました。残念ながら強迫性障害の治療はうまくいかず中断しましたが、それでも全体的な気分を測定するチャートでは、うつ病に50%くらい改善がみられたようです。娘の強迫性障害は侵入思考に悩まされるものなのですが、それが静かになった気がする、と言っていました。

娘の強迫性障害治療がうまくいかなかったのは、主に治療時に無意識に手足が反応することが原因でした。それが治療に対する不安感を増して、治療中にパニック発作を起こすようになったのです。私は医療知識を持ち合わせていないので詳細を説明するのは躊躇されるのですが、磁気をあてる部位によって、効果が異なるようです。クリニックの説明によれば、右側の脳に磁気をあてるのは脳の神経活動を抑えるため、左側の脳にあてるのは脳を活性化させるため、そして真ん中あたりが強迫性障害の治療のため、ということで、娘の場合は最初は左側を治療していたのですが、うつ状態が悪化したので右側に切り替えました。

娘の行ったクリニックの「よくある質問(FAQ)」ページ(英語:https://www.baytms.com/faqs)によれば、TMS治療後は数カ月から数年効果が持続するらしいのですが、娘の場合、残念ながら数カ月もしないうちにまた元に戻ってしまいました。「メンテナンス」治療として再び治療するとよいらしいのですが、娘は仕事をできる状態でなく退職して健康保険が会社がスポンサーとなる保険から公的保険に変わったため、TMSは適用外で、今のところ再治療の目処はたっていません。同じFAQページによれば、TMSはうつ病以外にも、双極性障害から不安障害、PTSD、慢性疼痛、偏頭痛、線維筋痛症、幻聴、耳鳴りなど、様々な障害の治療法として研究が進められているようです。

そして最後に、娘の強迫性障害治療は中断されてしまいましたが、知り合いのお子さんはスタンフォード大学のプログラムでTMSによる強迫障害治療を受けて、よい結果が出ていることを付け加えておきたいと思います。

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