自閉症燃え尽き症候群

 前回のブログでも書きましたが、自閉スペクトラム症(ASD)というのは、「スペクトラム」(Spectrumは光や波長による分布を示す「スペクトル」とも訳されますが、「あいまいな境界をもった連続体」という意味)という名称が示すように、症状の種類も重症度も幅広く、特に女性の場合は大人になるまで診断が遅れる場合が多いそうです。私の娘の場合は、子供の頃からずっと生きづらさは感じていたものの、大学も卒業し、ドイツ留学などもして28歳までは仕事もできていたのですが、今になって感覚過敏、反復的な運動、極めて強いこだわりがあることなど、ASDと通じる特徴が多くあることに気付き、診断を受けようと奔走しているところです(ASDの診断は他の診断と違い、特別な専門家による判定が必要なようです)。サポートグループで知り合った一人の女性は40歳を過ぎてからASDの診断を下され、それで今までの生きづらさが納得できて何だか気が楽になったそうです。

 ASDに気付かず、苦労しながらも何とか社会的に機能してきた人が疲れ果てて機能できなくなってしまう、娘の場合はまさにそれではないかと思えます。数年ほど前から注目され始めた「Autistic Burnout(私は勝手に「自閉症燃え尽き症候群」と訳しています)」というこの症状、人によって様々ということですが、極度な疲労感と強い不安を覚え、鬱状態になり、感覚の過敏性が高まって変化に適応できなくなるというのがぴったりあてはまるのです(「変化」というのは、単にその日の予定が一部変更になるような小さな変化も含みます)。そして、スキルを失う場合もあるそうですが、例えば私の娘は仕事はもちろん、調理をする、車の運転をする、洗濯をする、そしてときには歯磨きやシャワーなど、生活に必要な基本的なスキルも失ってしまいました。(これはまたこれで「実行機能障害」というそうですが、これについてはまた後日書きたいと思います。)あるいは、強いストレスを受けた場合は言語能力を失う場合もあります。

 ではなぜ、このような燃え尽き症状が発生するのかといえば、長年にわたってNeurotypicalな(発達障害でない人々を意味する定形発達の、いわゆる「ふつう」の)人々に溶け込もうとASDをカモフラージュしてきた結果だそうです。娘は自分はカメレオンだと言いますが、おそらくそのおかげで日本に行けば日本人と同じように振る舞って外国人の訛りなく日本語を話し、ドイツ留学した時はドイツ人に間違われるくらいドイツ語に堪能になりました。そしてアメリカに戻ってからは職場で他の社員と同じように振る舞う努力をしてきた結果、燃え尽きてしまったようです。ただ単に軽いおしゃべりをするだけでも、スティミングという反復的な動作をしないように自分を抑え、相手の目を見て受け答えをするということに多大な労力を使うらしいです。そのように、長年カモフラージュを続けてきた結果、疲れ果てて、もうカモフラージュできなくなり鬱になったり、もっとひどいときには自殺に走ったりすることがあるそうです。娘も、もっと早く気づいていればストレスの要因を取り除くことも可能だったかもしれません。ただ、「言うは易し」で、ふつうに会社勤めをしていたらASDの人がストレスの要因を取り除くことは簡単ではありません。例えば、出張があったらその後1日は休息させてもらうとか、在宅勤務を増やすとか、社交的な集まりは免除してもらうとか、よほど理解のある会社でないとなかなか難しいでしょう。ただ、コロナ禍のせいで在宅勤務は好むと好まざるに関係なく増えており、今後は勤務形態が恒久的に変わる可能性もあります。そうして少しはNeurotypicalでない人たちにとっても働きやすい環境になっていけばよいな、と思っています。

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うちのワンちゃんは羊のおもちゃに強いこだわりが…。

 

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