アメリカの健康保険

 日本の友人たちと話していて、いつも羨ましく思うのが、日本の健康保険です。アメリカではいつも国民皆保険ということが選挙の争点になり、オバマ大統領の時にはいわゆる「オバマケア」が導入されて公的保険の方向に近づいたのですが、それがかえってオバマケアの資格がない人々(中〜高所得者)の民間保険料の高騰を招き、多くのアメリカ人が不満を抱える結果となってしまったようです。オバマケアは政府が補助する民間の保険に入れる制度で、所得が一定基準を下回ると保険料が安くなるのです。けれども一定基準以上の所得では適用されず、かえって保険料が大幅に高騰しました。ちなみに私はオバマケア適用外の民間の保険をかけているのですが、控除額が高額で、年1回の健康診断は無料ですがそれ以外の診療は年間70万円まで自己負担という厳しいものでも毎月7万円ほどの保険料です。多少税金控除はあるものの、毎月大変な負担です。しかも医療費は高額なので、ちょっとやそっとの病気では医者に行くことはありません。オバマケアに対するもう1つの大きな不満は、健康保険に入らない人には罰金が課されるということだったのですが、それがトランプ大統領になってから廃止され、健康保険に入らない選択肢も選べるようになりました。これだけ保険料が高額だと、健康に自信がある人は入らないという選択をすることもやむを得ないかもしれません。

 オバマケアは、低いとはいってもある程度所得がある人のためのものですが、私の娘のように働くことができない全くの低所得者には、カリフォルニア州では公的保険のMedi-Calがあります。これは保険料も無料ですし、指定の病院に行けば医療費も自己負担はありません。けれども、この「指定の」というところが問題で、Medi-Calの保険を受け入れてくれる医者も、病院も、セラピストも(まとめて「プロバイダー」と呼んでいます)非常に限られているのです。Medi-Calがプロバイダーに支払う金額はふつうの金額に比べて低いために、Medi-Calを受け入れようとするプロバイダーは多くありません。たとえ「指定プロバイダー」のリストに入っていてもいざ電話してみると「Medi-Calは受け入れていません」と何度も言われました。セラピストを探そうと指定プロバイダー数人に電話してみても電話を返してくれないか、「新規患者さんは受け入れていません」と言われるかです。特に今は新型コロナウイルスによるロックダウンが長引き、多くの人がメンタルな問題を抱えているようで、普通以上にセラピストは忙しいのだそうです。そして無視されるか断られるたびに、本人はどんどん落ち込んでいきます。しかしようやく今回、診療予約をできそうなところまでこぎつけました。医師免許のあるメディカル・ドクターでなく、ナース・プラクティショナーという医師と看護師の中間にあるような、医師の指示のもと診療を行い、処方もしてくれる人が見つかったのです。予約がとれるのは一番早くて10日後ということですが、とりあえずほっとしています。

 国民全員が公的保険でその日に診療を受けることができる日本の制度はなんとも羨ましく、先進国はこうあるべきではないか、と思わざるをえません。日本の場合は憲法第25条で「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」とあり、健康で文化的な生活が国民の「権利」であると定められています。これを「生存権」というらしいのですが、合衆国憲法にそのような定めはありません。アメリカにも生活保護や公的保険など低所得者のための救済策は一応あるのですが、今回公的保険でプロバイダー探しに苦労してみて、暗澹たる気持ちになりました。

 国民皆保険にアメリカ人が反対する理由は何だろうと考えるのですが、それはやはり、巨額の予算をどこからもってくるのかということもあるでしょうが、会社がスポンサーとなって充実した民間の健康保険を享受している会社員の人たちが「公的保険になったら医療の質がひどいことになる」と恐れているのではないか、と思います。(会社員の場合は企業が保険料の大半を支払うため、保険料はそれほどかかりません。給料が低くても健康保険がつくなら正社員の職を探したい、という人も多くいます。)しかし国民皆保険の日本の医療の質は決して低くありません。日本の健康保険制度は世界に誇れるのではないか、と考えます。 

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200ページもあるプロバイダーのリストですが・・・。